2014.01.01

alanの涙

四川衛星テレビの歌番組「中国藏歌会 天籟之愛」でalanが見せた涙が話題になっていました。チベット語に訳されチベット人の間に回ったものを日本語訳した書き込みはこちら
https://www.facebook.com/tonbani.ninjye/posts/10152083425571661

せっかくなので、前後の流れとともに、中国語から訳しておきたいと思います。

曲が始まる前、司会者はalanをこんなふうに紹介します。

◇司会者MC
「それでは、次に迎える出場者はある女性歌手です。彼女はチベットエリアの出身で、テレサ・テン、フェイ・ウォンに続いてアジアマーケットで成功を収めた新世代の実力派女性歌手で、アジアの美の歌姫と讃えられています。今日彼女は、趣の異なる2曲をアレンジし、ヒットソングと民族色を完璧に融合させました。皆様に目にも見せ耳にも聞かせる盛大な宴をお送りします」

歌が始まる前に、チベットの映像とalanの語りが入ります。
(※この歌番組ではどの歌手が歌う時も曲の前に映像が入り、「オフィシャルスポンサー:チベット航空」とテロップがついて流れたようです)

私の故郷は丹巴(ロンダク)の美人谷
私はチベットの家の女の子
小さい頃から自分の民族文化を聞き覚え見習って自然に身につけてきました
のちに 学びへの探求のため
さまざまな都市で生活することになりました
故郷を深く愛し 音楽を強く愛する
私はアラン・ダワドルマ

国外で生活していたとき
たくさんの流行音楽の影響を受けました
でも 心の中ではずっと
自分の民族文化を
私の音楽に溶け込ませたいと思っていました

今回林芝(ニンティ)の生活を体験する機会を得られて
チベット歌会に感謝します
ここの雪山の山鳴り
ヤルツァンポ川のせせらぎ
故郷に戻ってきたような感覚になりました
たくさんのインスピレーションを得ました
私の故郷を歌います

♪天女
♪走出ヒマラヤ

歌い終わった後のMCです。

◇司会者
「ワオ。alan、なんといったらいいか。私の印象では、あなたには、チベットエリアから出てきた女の子という感じがまったくありませんよ。あなたは、本当に、チベット人なんですか?」

alanは次のように答えます。
(※イイカゲン訳で、かつ、つっかえたり、言い直しているところもなるべくそのまま逐語訳しています。読みづらい部分もあると思いますがすみません。補足は青字に分けました)

◇alan
「えーと。私は100%(百分の百)チベットの女の子です。というのも、私は幼い頃、丹巴(ロンダク)の美人谷で生まれました。それから康定(ダルツェンド)で、さらに小さいうちに成都に来て、そこで勉強しました。その後、学びへの探求が私を北京へ向かわせ、それから海外へ出ました。実は、私たちのような外にいるチベット族は、つまり、……」
(声を詰まらせる)

◇司会者
(横から助け船を出して)「女の子」
※文脈が通っていないので、これはおそらく、事前打ち合わせのセリフ(語りと同じ表現)を忘れたと思った司会者が台本通りの助け船を出したのだと推測します

◇alan
「はい、そうです。その通りです。確かに…っ…」
(涙で言葉が詰まって続けられなくなり涙をぬぐう。司会者が肩を叩いて励ます。会場から拍手)
「確かに、…確かに、私はちっとも流暢なチベット語を話せません。チベット語を書くこともできません。けれど、あなたと同じく、骨の髄から流れ出てくるある種のものがあります。この通り、私は先ほどバックステージでその小さい子が『天籟の愛』を歌っているのを聞いた時、全身の毛穴がすべて開くような感覚を味わい、特別な感動を覚えました。その実、私たち外にいるこのような、つまりチベット民族同胞は…」
(司会者がalanの頬をなでる)
「その実、私たちはとても故郷を愛しています。私たちもすごくすごくその言語を習い覚えたかった。でも、私たちの身の回りには実際そういう環境がなかったのです。ですから、私が言いたいのは、ええと、チベット語を話す方々、つまり、同胞たち、皆さんどうか、私たちの民族のこのようなものを必ず堅持し、必ず守り続け、発揚しましょう」
(会場から拍手)
「もっと多くの人たちに、ええと、チベット族を知ってもらい、私たちのチベット民族文化を知ってもらいましょう」

◇司会者
「アラン、がんばれ!」

◇alan
「ありがとう……ありがとうございます」

涙した背景について補足してみます。

質問は「あなたは、本当に、チベット人なんですか?」というものでした。

司会者は、「色が白くてスタイルの良い美人ですね(=中国人がイメージする粗野で不潔でほっぺたが赤いチベット族のイメージとは違いますね)?」という褒め言葉のつもりで振ったのかもしれません。(その場合、alanが「ありがとうございます」と返すとでも思ったのでしょうか? )
あるいは、2013年後半、中傷としてネットで乱れ飛んだalan整形疑惑ゴシップを踏まえた質問だったのかもしれません。(それもずいぶん意地悪な話ですが)
はたまた、 チベット人の間でたまに言われてきた「alanはチベット人じゃない、チベット語を話さない」「ギャロンはもう漢化されてしまっていてチベットとはいえない」などの評を念頭に置いたものだったのでしょうか。

3つ目のチベット人からの下馬評は、以前からalan自身も気に病んでいる風なところがあり、数年前に彼女のブログを訳したことがあります。
「困惑」(訳) http://lung-ta.cocolog-nifty.com/lungta/2010/11/20101115.html

※この番組の他のMCを見てみたら、この司会者は、チベット人に絶大な人気を誇る歌手クンガにも「あなたの格好良さはとてもチベット出身には見えません」と話を振っていました。( http://youtu.be/r7VyWeZn914 )なんとかの一つ覚えというか、話題がないので適当なフリとして使っている定型句なのかもしれません。褒め言葉のつもりだとしたら、チベット人に向かって言うにはとてもセンスがいいとは思えないけど……。
ちなみにクンガは「対(そうですかね)」と、さらーっと流して別の話をしていました(大人だw)。そして「(トレードマークの)サングラスを外してくださいませんか」という司会者のリクエストを拒否っていました(笑)。

質問と答えはおそらく打ち合わせ済みで、alanは自分の生い立ちを語り、「ロンダク出身の紛れもないチベット人ですよ」と自己紹介する予定だったのかもしれません。でも、そこで「確かにチベット語を流暢には話せないし、チベット語の文章を書くこともできないけれど」と、前置きとして口にしようとして、涙で出てこなくなってしまったのは、それがalanにとって口に出すことも本当につらい、喪失感の塊のようなものであり、大きな心の傷になっているのだな、と胸が痛みました。

「本当にチベット人なんですか」という「フリ」を、司会者の意図はどうあれ、alanは3番目(同胞から向けられる時として排他的な視線)として受け止めたのではないのかな、と想像します。クンガやヤンチェン・ラツェなど、チベットに住み、チベット語で作詞作曲し、チベット語で歌う人気歌手に並んで壇上に上がるとき、どこか引け目があったのかな……と。

それにしても、PVではalanに「チベットの民族文化を目と耳から自然に身につけました」というセリフを朗読させておいて、ステージ演出では半裸の原始人のような人々に担がれて登場する“美女と野獣”“野生に君臨する美の女神”をイメージさせ(alanの故郷をどんな場所だと思えと…)、最後に「本当にチベット人なんですか」と素で突っ込む。なかなか酷い番組だと言えば言えます(苦笑)。

一つ付け加えておくと、この「四川衛星テレビチベット歌会 天籟之愛」は、「藏歌会」と名付けられてはいますが、チベット暦新年の時にチベット語放送局で盛んに放映されるチベット人向けの歌番組とはまったく異なり、司会進行は中国語のみ、チベット人出演者も中国語で自己紹介し、歌も基本的に中国語で歌う番組でした。つまり、視聴対象は中国人で、演出も中国人向けの、「中国人がチベット歌手を消費する番組」なんだなとは思います。(クンガは2曲のうち1曲はチベット語で歌っていましたが)

チベット人の反応は例えば、こんな。

アムド(中国では甘粛省)出身で米国在住のチベット語放送局キャスター、ツェリン・キのツイート
「もしかしたら以前はalanには何の期待もしていなかったからかもしれない。今回の四川衛星放送のチベット歌番組でこのチベット族の女の子の心からの声を聞いてとても感動した。涙で訴える母語の重要性、それは同時に、あなたの苦悩と慚愧も伝わってきます」

おまけ
参考までに、alanの語りを中国語でも載せておきます。

MC:那该下来呢,我们这位梦出场的是一位女歌手。那她是来自于藏区。她是邓丽君、王菲之后成功进入亚洲市场的新生代优质女歌手。被誉为亚洲的唯美歌姬。今天她将用两首风格各异的歌曲串连在一起把流行和民族完美的结合。为大家奉上一道视听盛宴。

alan(心声)

我的家乡在丹巴美人谷
我是一个藏家女孩
我从小就受到 本民族文化耳濡目染薫陶
后来 求学之路 让我许多城市生活过
我热爱家乡 热爱音乐
我是 阿兰达瓦卓玛

在国外生活的时候
我受到了很多流行音乐的影响
但 在我的心中
一直都希望把本民族的文化 融入在我的音乐里

感谢藏歌会给了我这次
体验生活的机会
来到林芝
这里雪山的咆哮声
雅鲁藏布江的奔流声
有让我回到儿是家乡的感觉
这些都给我很多的灵感
我要歌唱我的家乡

<歌>

MC:哇噢。阿兰,我怎么看,我都觉得你不像从藏区走出来的女孩子。你真的是西藏人吗?

Alan:啊。我是一个百分之百的藏族女孩儿。那我从小出生在丹巴美人谷。然后在康定。又而我很小时来到成都,在这边读书。然后求学之路又让我去北京,然后出国。其实像我们在外面的藏族,就是。。。
(涙ぐんで口ごもり、動揺して手を振る)
司会者:  女孩子。
Alan: 对(涙をぬぐう)。就是。虽然(涙で言葉がつまって続けられなくなり、司会者が肩を叩く),虽然,虽然我没有一口流利的藏语言。我也不会写藏文。但是,就是你骨子里面,流淌出来的那种东西,就像我刚刚在后台,在我一听到那个小朋友想在唱《天籁之爱》的时候,我就觉得我的整个毛孔都打开了,我就觉得特别的激动。其实我们在外面的这些,就是这些藏民族的同胞,(司会者、alanの頬をなでる)其实我们也非常热爱我们的家乡,我们也非常非常的想学好这门语言,但是我们真的身边没有这样的环境,所以我就想说,啊,说藏语的,这是,同胞,大家一定要坚持,一定要继续,发扬我们民族的这种东西,(会場から拍手)让更多得人知道,啊,知道藏族,知道我们的藏族文化。
司会者:阿兰,加油!
alan:谢谢,谢谢

(alan)
因为我是从这边走出的一个姑娘。我非常想让更多的自己的同胞和热爱藏文化的这些朋友,认识我,了解我。最后呈现出来的这个秀还是非常完美的。

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2013.11.08

中国政府オフィシャルサイトからチベット国歌が! の周辺の話題

※短い引用訳出はTumblrを使ったりしていてココログがあまり稼働しておらずすみません。今回、長文やリンクが増えそうなのでブログを使うことにしました。まとまったコラムではなく覚え書きです。統一感なくてすみません。

 「中国政府が新しく立ち上げたプロパガンダサイトでチベット国歌をBGMに使う痛恨のオウンゴール!」(チベットNOWルンタ http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51808978.html)について関連を。
 「チベット語ページに掲載されていた動画だし、責任を問われて処分されるのはチベット人だったりしないだろうか?」「チベット人が仕組んだことではないか?」など周囲で盛り上がっていたので、本土や中国ではどんな話題になっているのか、ちょっとだけみてみました。

1) やらかした動画について

 《暴走青春 光影流动的西藏——李背包和杜小胖的西藏旅行视频纪录》(青春の暴走 光と影の流れゆくチベット――バックパッカー李くんと杜ちゃんのチベット旅行映像記録)というのが、アップされていた7分14秒の動画のタイトル。
 カップルであちこちを旅行しながらマイクロブログweiboに旅日記や映像をアップしている「旅行作家」らしく、今年5月頃からweiboに書き込みが登場しています。
http://s.weibo.com/weibo/%25E6%259A%25B4%25E8%25B5%25B0%25E9%259D%2592%25E6%2598%25A5%2520%25E5%2585%2589%25E5%25BD%25B1%25E6%25B5%2581%25E5%258A%25A8%25E7%259A%2584%25E8%25A5%25BF%25E8%2597%258F%25E2%2580%2594%25E2%2580%2594%25E6%259D%258E%25E8%2583%258C%25E5%258C%2585%25E6%259D%259C%25E5%25B0%258F%25E8%2583%2596&b=1&page=3
 検索結果から日付を辿ると、動画がアップされたのは2013年6月末。動画末尾のクレジットによると、制作は「录途影像」という北京の映像制作会社。李鹏さんと杜莎さんのカップルが世界各地をバックパッカー旅行する映像をシリーズでつくっているようです。
(企業公式weibo)
http://weibo.com/p/1006063212930602/home?from=page_100606&mod=TAB#place
 これをみると、動画を制作したのは北京在住の漢人で、チベット人はかかわっていないとみていいんじゃないかと思います。

◇参考:主演?の李鵬さんが撮影裏話を紹介している自身のブログ。
動画も埋め込まれていますが、残念ながら「この映像は削除されました」となってしまっています。
暴走青春 光影流动的西藏——李背包和杜小胖的西藏旅行视频纪录 http://www.mafengwo.cn/i/1287594.html

(参考:YouTubeにアップされていた複製で、公開は2013年6月25日となっていますが、なぜか11月8日時点で既に手際よく冒頭1分33秒の音声が消去されたもの)

 動画は、全編にわたって漢人の若い金持ちカップルがチベット各地の「きれいな風景の前で」記念写真を撮りまくるシーンで構成されています。ジョカ ン前で五体投地するチベット人仏教徒の姿も、聖地に祈りを込めて積まれた石も、よりよき来世を願って身につけてきたものの一部を聖木にかけて「うまれかわ り」を祈る習慣も、彼らの前ではすべて「きれいな風景」でしかありません。遊牧民の家で干し生肉の一片を嫌そうにつまんだり口に入れかけて出してみたり、 マニ車をオモチャみたいにぶん回して遊んでみたり、シンギングボウルを「チーン」とひっぱたいたり、漢人がいかにチベット文化に無関心・無理解で植民地侵 略者であるかを端的に示す、ほんとにいい映像資料になってます。

2) 動画への反応

2013110852154

 新浪weiboをタイトル検索した範囲で、かつ、weiboはよく削除されるので正確なところは分かりませんが、現時点で検索結果からみる限りでは、普通と言うか、あまり大きな反応はなく、チベット人の(中国語での)反応はゼロです。
 主に漢人が、
「チベット…一生の間に一度は行ってみたい!」
「ぼくも旅行に行きたくなった。この動画は一見の価値ありだぞ!」(※この発言は一字一句同じものが3つも並んでるのでヤラセ投稿かも)
「ヤバいねチベット ところでこれ全体の旅費っていくらくらいなの?」
などの発言を投稿している程度でした。もちろん、BGMについて触れている人はいませんでした。

3) VOAなどに報じられて以降の反応

[中国人のツイート]
中国政府のオフィシャルサイト「中国チベットの声ネット」はオープンしてまだ日も浅いのに、民衆は意外にもサイトのトップページでミュージックビデオのなかに禁止されているチベット国歌、すなわち現在のチベット亡命政府の国歌でもある「Gyallu」が流れているのを発見してしまった。もし「較量無声」がアメリカ映画からBGMを盗用したのだとしたら、じゃあ、チベット関連の中国政府オフィシャルサイトがチベット亡命政府の国歌を使用しているのはどう説明するんだろう?

[ウーセルさんのツイート]
およそ2カ月ほど前、チベット衛星テレビの、あるチベットの現代芸術家をテーマにした番組のエンディングのBGMが、まさに今回のダラムサラの子どもたちが合唱するチベット国歌でした。私も聞きました。

※えーーっ、初めてやらかしたんじゃないんだ!!!

[チベット人のツイート]
聞いたわ、すっごくよかった。チベット衛星テレビで放映された映像も、この「バックパッカー李君と杜ちゃん」のビデオなのかしら?

「ウーセルさんのツイート」
(「前半の子どもたちの歌の部分は、覚え間違いでなければ、ケルサン・チュキも歌っていた歌ではないですか? とてもいい歌! 聞きながら思わず鼻歌が出そうです」に返信して)
そうです、ケルサン・チュキのアルバムのなかに彼女が歌ったチベット国歌があります。とても感動的です。

[ウーセルさんのツイート]
チベット衛星テレビで放映されたのは、この動画ではありません。あるチベット人画家のインタビューで、終わりの部分でこのダラムサラの子どもたちが歌うチベット国歌が流れたんです。当時それを聞いた私は驚きすぎてあぜんとしましたよ。

[ウーセルさんのツイート]
(「そのインタビュー番組の映像はネット上にありますか? チベット語? 中国語?」という質問に答えて)
中国語です。その日はネットにも上がっていました。ただ、エンディングのBGMのせいで、インターネット上では今は、最後の曲の部分だけカットされたものしかありません。

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