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2005.03.03

日本語を学ぶ

 日本語支援ボランティア養成講座に参加。地域で外国人に日本語を教えている人を対象にした講座なので、何もしてない私は本来およびじゃないんだけど、後学のため、と入れてもらった。
 グループ別に問題を話し合う形式で、最初の課題は「私は会社の寮で住んでいます」。
講師「日本人なら『寮に住んでいる』が正しい、というのは分かりますね。じゃあ、なぜ『~で』じゃダメなの? と聞かれたらどう答えますか?」
参加者「場所を言う時は『に』だから…」
講師「『学校で勉強する』も場所+動詞ですよね。『~で』を使う動詞もあるんですよ」
そこで「文法や文型を表す用語で説明することもできるけど、まず類例を挙げて、どんな違いがあるのか整理してみましょう」という作業。
 「京都行く」「学校通う」「レストラン入る」「家帰る」「前進む」「長野県引っ越す」「車乗る」……「東京遊ぶ」「プール泳ぐ」「県庁働く」「部屋くつろぐ」「ベッド寝る」「デパート買い物する」……おおっ、面白い。何か漠然とだけど動詞のカテゴリ違いが見えてくるじゃないか?
 「移動を伴う動作、移動した結果そこで行う動作が『~に』、移動を伴わないもの、一定の範囲内で行う動作が『~で』、という法則性があることが、類例で考えると分かりやすいと思います」
 ほうほう!
 「寝る」は「部屋寝ました」「布団の上寝たい」だと「~で」だけど、「診察台寝てください」「道路寝てはいけません」は「~に」だ。そうか、“眠る”“睡眠を取る”という動きのない意味で「寝る」を使う時と、“寝そべる”“寝っ転がる”という動作を伴う「寝る」とでは、無意識のうちに「で」と「に」を使い分けているわけだ。すごいじゃん私。規則的じゃん日本語。
 同様に、「明日、会社運動会があります」はなぜダメで「庭ブランコがあります」はよいのか、「ロビー通ってエレベーターに乗る」はダメで「学校通って3年生に進学する」はいいのはなぜか、「彼は親反抗している」「彼女は親憎んでいる」はダメでその逆はいいのか、などなど、例文を作りながら皆で考える。例文をつくると、やっぱり動詞のもつ意味や働きに違いがあるのが見えてくる。
 へぇへぇ!
 確か中学生くらいで、「に」「で」「を」などを「助詞」と品詞分解して「目的・場所・作用の方向・受け身……」などと暗記した記憶があるけど、確かに成分が分かってもそれだけじゃ日本語は使えない(どの動詞にどの助詞を使ったらいいかは分からない)。後ろの動詞の意味によって「に」なのか「で」なのか「を」なのかが決まっていたとは面白い(しかもネイティブ日本人はそれを意識せず無意識にやっているってことが面白い)。子どものように例文を作りまくった。いやー面白い。わははは。
 ところでもしかするとこれは恥ずかしい話なのかもしれないが、私は「去年から前橋住んでます」という文に違和感を感じない。ふむ、それはもしかすると、「住む」という動詞の、“移動した結果そこで行う”という意味合いが薄れ、「遊ぶ」「くつろぐ」同様“1カ所で何かする”って意味を強調する文脈だからかも! と、なんか大発見した気持ちでそう講師に質問したら「いや、『前橋アパート住む』など具体的な場所が挿入されない限り、基本的に『前橋住む』は間違いですね」とアッサリ否定されてしまった。私の日本語センスって……。
 「群馬暮らす」「群馬暮らす」ううむ、これも両方違和感ないなあ。「今日はご主人は?」「夫は家寝てます」という会話も(動きのない「寝る」だけど)アリだと思うし。私の日本語センスって……(がっくり)。
 さて、もうひとつ勉強したのが「ストラテジー」(戦略?)。
 別の講座では、ストラテジーを「ある局面に自分が立たされた時に、現在持っている知識と能力でなんとかして目的を達成する能力」としていた(例えば;指にケガをしたので絆創膏がほしいけれど「絆創膏」という言葉やどこに行けば手に入るかを知らない、という局面で、(1)あきらめる(2)言葉の分かる友人に頼む(3)手近な店に飛び込んで物色する(4)「テープ」「けが」「いたい」「くすり」など、知っている単語を並べてみる(5)傷口を見せて身振り手振りで表現する――など、どんな手段や方法をとるか、ということ)。
 今日の講座では意味づけがちょっと違った――そしてけっこう興味深かったので、詳しめに書いてみる。
 まず課題。以下の間違いの中から「コミュニケーションに大きな影響を与える、やってはいけない誤用はどれかを選ぶ」というもの。

(1)私は現在、プラスチック工場で働きます。
(2)先生、ここでタバコを吸ってはいけませんよ。
(3)「それ何の薬ですか?」「これは頭の痛いの薬です」
(4)「黒板を消してもいいですか?」「ええ、いいですよ」
(5)日曜日、天気が良かったので、公園に自転車を乗っていきました。
(6)私は来月、結婚しています。
(7)1年日本に来ていますが、日本語が上手くなりません。
(8)私が昨日買いましたデジカメは、とてもいいです。
(9)課長、いつか僕の将来について話しましょうか。
(10)昨日見た夕日はきれかったですね。
(11)明日スキーに行くんですが、一緒に行きたいですか?
(12)暑いので窓が開いてあります。もし寒かったら閉めてください。
(13)彼はわがままでみんなに困らせます。
(14)あなたはスキーが結構上手ですね。
 興味深いことに参加者全員が、(2)(4)(9)(11)(14)がマズい、という意見で一致。文法的に間違っているわけではない語句(例;「ええ、いいですよ」「一緒に行きたいですか?」)もあるけど「ダメでしょこれも」。
 「これが日本語学校の先生と初級の生徒の会話で、先生が相手は初級の生徒だと分かっていれば『ええ、いいですよ』でもいいけど、もし普通の大学の大教室で、日本人の教授と一見して外国人と分からないアジア系の私費留学生の初対面の会話だったら、絶対教授は怒ると思う」。ふむ。じゃあなんと言えば。「『ええ、大丈夫です』とか『はい、お願いします』とか」。なるほどなあ。厳しいよ、そんな言葉遣いにいちいち突っかかるなんて、とも思うけど、実際のところそんなもんかもしれない。あと、文法には間違いがないけどなんだかムッとしちゃう、ってところがより問題なのかもしれない。
 講師いわく「この、文法や語彙では解決できない、コミュニケーションを取る上での言葉の運用方法が『ストラテジー』です。語彙や文法は正しくても言葉の選択や伝え方を間違うととんでもないことが起きるのがコミュニケーションです。そしてこれは教科書では学べません。なぜなら、日本語のテキストには、『~してもいいですか』『いいですよ』という例文が載っているし、文法上『~したい』の疑問形は『~したいですか』と教えられるからです。ですから、日本語ボランティアは、文法や文型よりも、ストラテジーを伝える立場になることも時には必要だと思います」。
 ふむ……。
 授業が終わり、教室を閉める時間になったので帰ってほしい時、日本語学校では生徒に「授業が終わりました。帰ってください」と言うだろう、しかしその学生が別のシチュエーションで日本人に向かって「食事が終わりました。帰ってください」と言ったら日本人はムッとする。日本人は相手に帰ってほしい時、「もうそろそろ時間が……」とか「そろそろ教室を閉めたいのですが……」などと言う。「帰ってほしい」という言い回しは直接使うことはないでしょ、なんて話も。ふーむ。
 それは確かに「日本で生きるための技術」であり「日本社会でトラブルを起こさず周囲と馴染む手段」であって、それこそが戦略(ストラテジー)なんだろう。「郷に入れば郷に従え」だし、少数者の立場の日本語学習者が「どうしてコミュニケートがうまくいかないのか」を分析することも必要だろうし、決して『日本式やり方の一方的押しつけ』ではないんだ、とは思うんだけど、「日本語教育ってそこまで要求するんだあ」と、なかなかに感じ入ったことではありました。
 参加者のなかからも「するとそれは『日本人には謙譲の美徳というものがあり』とか『最初は遠慮するのがしきたり』とか『保護者の集まりで子どもを自慢してはいけない』とか、そこまで教えろということですか? 先生は学生をいつもそこまで指導しているんですか?」という声が上がっていたなあ。
 日本に住み続けることを選択し日本の企業に就職して日本人の同僚や取引先とうまくやっていきたいと考える外国人と、大学で論文書いて学位を取ったら日本を去るつもりの外国人と、日本に住んでお金は稼ぎたいけど自文化のライフスタイルを通したいし日本人になるつもりはない、みたいな外国人と、いろんな立場と考えの人がいるんだよなあ、その立場なりのストラデジーがあるんだろうなあ、などと考えた。
 そんで我が身を振り返ってみると、これまで、中国語を話そうが英語を話そうが、コンテキストはまるっきり日本人のままだったと思う。例えば、中国語にも英語にも「いただきます」という挨拶はないのに無理矢理「那ノム開始吃ロ巴(さて食べ始めましょうか)!」などと言ってみたり、ほぼ初対面の相手にも「お世話になっています」と言ってみたり。考えると、ヘンなことをたくさん口走ってたり妙な行動をして相手を面食らわせていたんだろうと思うけど、私は日本人だし、中国人にはなれないし、と開き直っていたんだよなあ。それでも中国人は別に私を排除はしなかったなあ(まあ、私も単なる学生で「いつかいなくなるお客さん」であって、恋愛したり働いたり取引関係を持ったりしたわけじゃなかったけど)。
 文法や語彙を超えた「ストラテジー」(言語運用能力)という考え方を知り、なかなか考えさせられたことでした。

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