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2005.03.04

「ちびくろさんぼ」はチベット民話?

 時折巡回している有名どころで「チベット」という単語を見かけ「へ?」。思わずリンク先を辿ってネットの海に漕ぎ出したり。
 『ちびくろさんぼ』はどういう内容の話なのか、リベラルな人はもう一度よく考えてみて欲しいと思った(by愛・蔵太の気ままな日記)のテキストについたコメント

『(前略)他にも色々載ってますが、チビクロサンボの原型はチベット民話だったんですね・・・』
からリンク先を辿って噂の放送・発売禁止作品の4項目めへ。メール投稿を集めたサイト構成で、投稿の一つが「チベット」言及。
・ちびくろサンボなんですが、これは元々チベットの民話なんだそうです。
サンボとはチベットでは極一般的な名前なのですが、これがたまたまイギリスだかアメリカだかで黒人を侮蔑した言葉であったために問題になったとのこと。
良く良く考えれば、アフリカにはジャングルはありませんし、虎もいませんから納得の行く話でした。

別の投稿者からはこんなコメント(というかフォローというか補足というか)も。
・発禁作品の「ちびくろサンボ」の項に同作品がもともとチベットの民話であるというコメントが載っていますが、それは聞いたことなかったですね。
もちろん「ちびくろサンボ」はイギリス人女性ヘレン・バナーマンが当時植民地だったインドに住んでいたときに自分の子どものために創作した絵本が(英国で)出版されたものですが、このときチベットの民話をヒントにしたのかもしれません。
なお、最後にトラがバターになるとも書いてありますが本当はインドの「ギー」という食材です。ラインハート版(英米で市販されているもので最も原作に近いとされているもの)の絵本では「バター(インドでいうところのギー)」と注釈しています。

 チベットではよくある名前……えーとえーっと、トンミ・サンボータとか? あ、そうだ、「チベット潜行10年」の木村肥佐生氏の偽名もダワ・サンボ(ただしモンゴル人チベット仏教僧という触れ込み)でしたし、「虹の階梯 チベット密教の瞑想修行」の著者もラマ・ケツン・サンポ師でした(ボじゃなくてポだけど)。
 ちびくろサンボ(の舞台)はインド、というトリビア(これはほぼ確定でしょうか)は知ってましたが、チベット民話由来説というのは知らなかったぁ。「シュナの旅」といい「金玉鳳凰」といい、あなどれんぞチベット民話。つーか何だ、「チベット」とつくだけで、元ネタに当たりにくいがために神秘さが増すというか何というか、そういうイメージ効果があったりしません? “差別の物語”の烙印を押された「ちびくろサンボ」がにわかにイノセント感漂っちゃう、とか、さあ。ううむ。
 検索すると、「サンボ=(英語の侮蔑的表現「Sambo」ではなく)チベット系の人名SangboないしSangpo」という説は割に確定的に語られているようです(※原著タイトルはあくまでも"The Story of Little Black Sambo"で、チベット語ローマナイズのSangbo/Sangpoではありません。また、英語表記をSamboとつづっているチベタンもいないわけではないです)。民話由来説はまだ「新説」っぽいですが。ヒット数多い有名どころで言及されてると人口に膾炙してそのまま(ネット上では)既成事実になっていく気がしたり。だから何だ、という訳ではないけど。
 関連テキストはネット上にも山積してますが「めだかの学校・海外の絵本」(ページの真ん中ほど、「ち」の項に「ちびくろ・さんぼ」が)には、絶版となった経緯と絶版について考える本からの引用がコンパクトにまとめられてました。
 絶版・復刊の是非や差別問題のほうはとりあえず置いといてチベおたく的ポイントのみ触れると、(「サンボ」とともに差別的とされている両親の名前)「マンボ」「ジャンボ」も
前略…インドには「サンボ」という名前のシェルパ族(シェルパ語では、サンボ=優秀な、マンボ=たくさんの、ジャンボ=大世界という意味)の人々が沢山いて…中略…チベット語の方言であるラッサ語の形容詞に「サンボ=良い」「マンボ=沢山の」「ジャンボ=柔らかい・やさしい」…。ちびくろサンボ速報(径の本)1991.1.14号
 (※径書房のしおりから「めだかの学校」に引用された部分の孫引き)なんだそうで。
 いや確かにそれはそうかもしれないけど、「マンボドゥ(たくさんある)!」とか普通に言ってると思うけど、人の名前に「マンボ」(たくさん)はない……よなぁ? 「ジャンボ」は私の貧困な語彙のなかにない単語で申し訳ないんだけど、「ジャンボさん」がいるかというと……(ジャンパルさんはいるけど)。うーむ。同じ発音の羅列であっても違う言語体系のなかでは異なる意味をもつ、という例示をしてもこの際あまり意味ないと思うんですが、どうですか。

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Comments

どっちへのコメントかなあ〜
未だに良く理解できない言葉で,【情けは人の為ならず】という言葉があり,広辞苑では「仏教的な解釈で情けをかけていれば自分に戻ってくるよ」とあるけど実は逆で【情けは他人の為(に)ならず】が正しいのではないかと思っています.ハンディキャップがディスアビリティと言葉が変わるごとに差別が囲い込まれていく.昔は結構共存していた.
日本の仏教が差別を制度化した事実もありそうだし,難しい問題ですね.

Posted by: 酔鬼 | 2005.03.05 at 11:32 PM

酔鬼様
> どっちへのコメントかなあ〜
私も酔鬼さんのコメントの含みをつかみかねていてすいません……何か私まずいテキスト上げたでしょうか? 絵本そのものについて私自身の意見は特にないです…。物語の成り立ちと流通した経緯と受け止めた読者と、欧米での社会的背景と日本の社会的背景とか、すべてにそれなりの過程があるなと思いますし、全部ひっくるめて知ることは無意味ではないとは思ってますが。
私が「へぇー」と興味を持ったのは、チベットに伝わる民間伝承や物語(私ゃイエティくらいしか知らない…あとはパドマサンバヴァとかの偉い人の空を飛んだり分身が出たりする話くらいか)の中に、知恵の回る子どもが主役でトラがぐるぐる回ってマルになったりするような「原型」ぽい話が本当にあるのかなー、あるんだったらそりゃちべビアとして面白いなー、という1点でして。あんま何も考えてなくてすいません。

Posted by: うらるんた | 2005.03.07 at 03:04 AM

あーそうそう!この「チベット説」見かけたことある!
でも、チベット由来だとしたら、バターでホットケーキを焼いて食べた、っていう最後のオチ、原作?ではいったい何を食べたんだろうというのが気になりますが(^^;
欧米文化と接点のあったシェルパだとしても、ホットケーキなんてそう昔からあったわけではないでしょう。似たような食べ物といっても、パンばかり大量に食いたいと願う民族とも思えません。
バター茶をたらふく飲みました、では、いつものこと(^^;なので、巨大なトルマを作って盛大に新年を祝いました、とか、そういう話が美しいでしょうか(^^;

それか、インドの平原に出てきたチベット人が、おいしいヤク(ディか)のバターを懐かしむあまり、こういうお話を思いついた、ぐらいの真説をネットで流布しますか(^^;

Posted by: 長田 | 2005.03.07 at 02:43 PM

>長田様
虎ってチベットにいたっけ、いるとすればカムかな~、などと舞台装置ばかり気になってたんですが、言われてみると確かにパンケーキ(小麦粉+卵+バター+砂糖+重曹)はチベットっぽくないです^^ 食べるなら肉でしょうねー、彼らは(^^(パレはパレでもシャパレとか)
> 巨大なトルマを作って盛大に新年を祝いました、
おおおっ一気にチベ色濃く!!(^^
「もしちびくろサンボが『チュンチュン・サンボ』だったら」とか想像してみるとなかなかに違った展開が想像できて楽しいかもです^^

Posted by: うらるんた | 2005.03.08 at 01:27 AM

民話っつーか、作家とかの手が加わっていない民間に語り継がれているままの「口頭伝承」って、しっかりした構成やオチのあるいわば「物語」って、なかなか無いんですよ。ホットケーキ(これいかにもイギリス人の発想ですよね)の代わりに「何か」をたらふく食べた、みたいなオチは、「民話起源説」がホントだったとしても無かったんじゃないかなぁ。せいぜい「虎がグルグル回ってギーになっちゃった」て部分だけ、とか。
夢の無いレスでスミマセン。ときに、長田さんのレスを拝見して「良いコト」を思い出したんですが、脱線しすぎたのでメールにしました。よろしくです。

Posted by: 苦沙弥@ヘタレ民俗学徒(だった頃もあった) | 2005.03.10 at 12:50 AM

>苦沙弥さま
「チベットの民話」(W.F.オコナー編)でもやはり、中国やインド、あるいは仏教説話の影響が強すぎて、チベット本来の民話を探すのに苦労した、という記述がありました。
んーでも私のような素人からすると、仏教の影響受けているほうがチベットっぽいし、中国やインドの影響がないわけないじゃん、てなもんで。よそから伝わってきた物語であっても、チベット人の間で受け入れられるためにはチベットライクな改編なり解釈なりが生まれるだろうし、その部分こそがチベット的なものになるんだろうと思ったりします。人の口を通じてのみ伝えられる物語や創作において「オリジナルは存在するのか?」という問いですよねー。
そうそう、メールもありがとうございました! 先にお礼を申し上げず大変申し訳なかったのですが、「こっ…これは!!」と驚いて、前々からこーゆうのをどこかでどうにかできないかと考えていたこともあり、発作的にワーキングスペースを作ってしまいました(こっちのBlogでやると邪魔になるので)↓
http://blogs.yahoo.co.jp/ura_lungta

Posted by: うらるんた | 2005.03.11 at 03:13 AM

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Tracked on 2005.03.20 at 05:38 PM

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