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2010.11.24

[メモ]シンボル

 ここまでの流れは以下を参照。
 http://togetter.com/li/72300

 140字で端的に言うのは難しいので、ここをメモ代わりにして申し訳ないのですけど個人的な感想を書いておきます。システム開発の技術的分野は完全に門外漢なので、部外者の感想ってことでお願いします。


 パソコンやウェブサイト上にチベット語の環境をつくろうという努力は、汎用OSが誕生した当時から20年以上にわたっていろんな方が努力して来られたことだと思います。特に、使用しているパソコン環境にとらわれず、異なるシステム間でもやりとりできるチベット語データを待ち望んでいた人は多いのではないでしょうか。

大谷大学チベットランゲージキット
http://web.otani.ac.jp/cri/twrp/outlk/jp/features.html

チベット語入力ソフト(サンボーダ)
http://www.nitartha.net/

カワチェン チベット語入力(上記ソフト日本語互換バージョン)
http://www.kawachen.org/sambhota.htm

たけださんのチベット語エディター
http://www.h5.dion.ne.jp/~pema/mwtib/index.html

 ずぶの素人の感想ですが、十数年前は、パソコン上でチベット語を自由に読み書きできることは「学術研究者など特殊な技能を持った人が特殊な用途で使うために必要なこと」であって、一般人からの需要はない、一般人はできなくてもいい(=手書きでいい)、と考えられていた状況じゃなかったか、と思うんです。

 その後パソコンとインターネット環境のすごい普及があって、でもチベット語はパソコンでも読み書き(表示と入力)がまだ不十分で互換性がなかったから、5年ほど前までは(つまり、Windows VistaとMac Leopardが出るまでは)チベット人同士でも英語でメールを書いたり中国語でメールを書いたりしなければいけない状況だったと思います。
 さらにVistaとLeopardが出てきてPC上ではUnicodeによるチベット語環境が整った後も、携帯電話にはチベット文字が組み込まれていない(iPhoneのこれまでのバージョンでやや崩れた形で表示されるのを除く)状況は現在も続いていて、中国の携帯は漢字と英語だけが表示されるし、インドの携帯はディーバナーガリーと英語だけ、日本の携帯は日本語と英語しか表示できません。携帯電話のショートメールが普及しているインドや本土では、せっかくPCでの環境が整ってきただけに、携帯でもチベット文字の入力や表記ができる日を待ち望んでいる人も多かったと思うし、だから、24日リリースされたiPhoneの新OS「iOS4.2」に喝采を叫んだ関係者が多かったんだと思います。

 (素人視点による経緯、ここまで。)


 さて、チベット人自身が開発した、というふれこみのチベット語入力支援システム&フォント「モンラム・プェイ」をまとめているのは、南インド・セラ寺院の僧侶ロサン・モンラムさんです。
 本土出身の亡命1世であるモンラムさんは、幼いころから機械いじりが好きで、ワイヤレスマイクをばらばらに分解してまた組み立てて遊んだりするような子どもだったそうで、本業の仏教の修行の傍ら、ITにも興味を持ちます。
 お寺にパソコンが配備され、前を離れようとしないモンラムさんに「そんなに興味があるならやってみろ」ということでパソコンに触る機会を得たそうですが、モンラムさん、本土で育ってますので英語を勉強した経験がありません。画面に出てくるコマンドの意味も分からないし、どこを押せばどんな動作をするのかも分からず、お寺は市街地から離れていて、近くにパソコンショップがあるわけでもない。とにかく最初はありとあらゆるところを触って動かし、「なぜさっきはこう動き、今はこう動作したのだろうか」とチベット仏教の弁証法で論理立てて考えていくことで、まったくのゼロから約2年でパソコンの使い方を修得したんだそうです。(信じらんないけど、本人がそう言ったんだもん)

 インターネットにつながったパソコンで世界をかいまみたモンラムさんが抱いた夢は「パソコンで全世界のチベット人が一つにつながり、チベット語で会話し、国境も山脈も超えてチベット語を次世代に伝えていくこと」。このへんは想像ですが、パソコンオタクのモンラムさんが、インターネットの凄さやウェブで知りえた情報を周囲のお坊さんたちに熱く語る様子が目に浮かぶし、セラ寺の伝統的な生活共同体の中で、モンラムさんがパソコンオタクとして局地的な有名人になったことは想像に難くありません。

 その後、局地的有名パソコンオタク・モンラムさんは、チベット語入力システムの開発に携わってきたその分野の第一人者である外国人と知り合う機会を得たり、言語システム開発分野のプロジェクトからインフォーマントとして招かれたり、などの縁を得て、パソコンでチベット語の読み書きが自由自在にできるようになるべきだと考えているのは自分1人ではないのだ、という連帯感を得ました。「パソコンを使えるチベット人全員がチベット語も打てるように」と考えて、システムの無料ダウンロードサイトを作り、チベット政府がバックアップして盛大なお披露目もできました。今は、彼の弱みである英語力と総合的なIT技術の知識を充実させるために、興味ある分野を貪欲に吸収している最中だと思います。(確か現在はカナダだったかアメリカだったかで英語とITを学んでいるのではなかったかな)

 彼が1人で最初から全部を作り上げたなんてことはあり得ないです。でも、素人目から見たときに、チベット人にとって、シンボルとしての彼の登場はとても大きな衝撃があったように思います。
 パソコンなんて触ったこともないのに、本土出身でちゃんとした教育を受けてきていない(と難民社会の人たちは考える)のに、チベット人が、たった2年でパソコンを使えるようになり、「チベット語でメールが書けるよ、チベット人なんだからチベット語を使おうよ」と呼び掛けたのです。「自分たちにもやればできるはずだ」という意識と自覚と自信が生まれたんじゃないかと思います。

 私はモンラムさんに会ったのはごくわずかな時間だけですが、それ以上に、モンラムさんを尊敬して「彼はすごいなあ」と感心し褒める人の話を聞きました。知り合いは「モンラムさんが呼び掛けてから、海外在住のチベット人たちがツイッターやメールでチベット語を使うことが流行している。ツイッターの自己紹介やスカイプのIDもチベット語表記にしはじめている」と教えてくれました。
 実際に開発したかどうかではなく、その存在が周囲のチベット人に及ぼした影響をみるなら、決して小さいものではないと感じます。ライブドアの象徴がホリエモンだったみたいに(皆ホリエモンが1人でライブドアを作って運営してる訳じゃないことは知っていて、それでも象徴的存在として見ていたわけだし)、実態とは違うかもしれないけど、「PCシステムにチベット語環境を普遍化させよう」というキャンペーンにシンボル的な人物の存在がある、というのはそんなに敵視しなくてはいけないことかな、とも思ったのでした。

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Comments

アッ!iPod touch でチベット文字が正しく表示される!
嬉しい!!

この記事を読んで、慌ててiPod touchのOSをアップデートしました。
チベット文字が正しく表示される!
嬉しい!!!!

って、自分が必要だったのは
ビデオと音楽のタイトルのチベット文字表示だけなのだけれど....


◆おまけ:
大昔に作った「チベット文字得ディター」まで書いて頂き、ありがとうございます。
これの原型は、元々あるNGOのチベット文字を用いたホームページを作る目的で作りました。
その古いホームページを、現在の「モンラム」も含む新しいシステムに変換するツールは出来上がっています。
過去のドキュメントを無駄にしない方策です。
って、何の事か判らないですよね....


では、また!

Posted by: たけだ@さっぽろ | 2010.11.24 at 10:34 PM

ご無沙汰しています!
ありがとうございます、しかも間髪いれず。。
たけださんがブラウザに依存しないフォント作成をしてた経緯を書いたページを探したのですが見つからず、こちらをリンクさせていただきました。(勝手にすみません)過去のドキュメント無駄にしない方針すばらしいです。技術的なことは分かりませんが、前に「Unicodeフォントができてもう役目が終わっちゃったけど」という話をされていたときに、すごくもったいない気持ちがしたので、なにか嬉しいです。

iPod touchのこれまでのiOSでチベット語表記がどう表現されるか検証してるブログも読みました。
野村さんは歩きながらチベット語打っていて電柱にぶつかったようなツイートを書いていました……たけださんもご注意……。

Posted by: うらるんた(管理人) | 2010.11.25 at 12:02 AM

新しくなって便利に使えるのが一番!!
過去に蓄積したデータの扱いは、悩みもの。

> 野村さんは歩きながらチベット語打っていて電柱にぶつかったようなツイートを書いていました……たけださんもご注意……。

自分はiPodでチベット文字が表示されれば満足なので、問題ありません。

入力は紙の辞書と一緒でしか出来ないので、歩きながら入力する事はありえません。

では、また!

Posted by: たけだ@さっぽろ | 2010.11.25 at 01:40 AM

現在ではすでに Mac, Windows, Linux など主要OSでチベット語の入力表示が可能になっていて、
標準のMacやWindowsに入っているチベット語環境のスイッチをonするだけで使えます。
あと必要なのは、フォントとキーボードレイアウトのバリエーションにすぎないという状況です。
Windows XP みたいな古いシステムを簡単に Unicode 対応させるツールも出ています。
チベット政府の機関 CTRC もだいぶ前からUnicodeフォントセットを出しています。
http://www.tibetgov.net/ctrc.html

そういうタイミングで、後発のフォントとキーボードレイアウトのセットに、
ちょっと仰々しいインストーラーをつけたものを出してきたくらいで、
自分たちがこのシステムでUnicodeでチベット語の入力表示環境を可能にした!
くらいのことを言ってまわっている(ようにみえる)人がいることに疑問を覚えるんです。

現在のUnicodeによるチベット語システムの完成に功績があったのは、
・以前から独自の文字コードによるシステムを開発して技術を蓄積してきた
・チベット文字のフォントをデザインしてきた
・Unicodeでチベット語を表記するマッピング http://goo.gl/Rk9j5 を策定した
・従来のチベット語キーボードレイアウトやチベット文字フォントをUnicode環境に移植した
これらのプロセスに関わった人たちだと思います。もちろんチベット人も大勢います。

フリーソフトウェア・コミュニティーでは、長いことこのように言われてきました。
多くの無名の人たちが無償で力を出しあってなんらかの成果が達成された時に、
それが自分の活動の成果であるかのように言いだす個人が出てくることによって、
開発者同士の不和が生まれたり、他の開発者たちのモチベーションが下がってしまい、
結果的に全体としては得られる成果が少なくなってしまう危険性がある。
なぜなら、無償で協力して働いている人々が得られるのは、
ユーザーたちの称賛という報酬しかないからだと。

もしかすると守秘義務があるかもしれませんからいちおう個人名は出しませんが、
iPhone/iPad のチベット語システムの開発に陰ながら尽力してきた人たちだって、
(ある程度の報酬も出ているとは思いますが、努力に見合う額ではないでしょう)
その手柄が自分のものであるかのように吹聴する人がいるということは、
あまり気持ちの良いことではないのではないかなぁ……と思っています。
(そのへんが「自己顕示欲が強いところが問題」という控え目発言だったと思います)

なので、それは、そういうのは軽くスルーしておくのがよいとおもっているんですが、
普段から身近に感じているテンドル&うらるんたさんたちの今朝の反応をみて、
あぁ、あんまりチベット語システムを使ったことない人にはそう見えるのか……
とちょっと思ってしまったわけです。

僕は幸いにして、自分の研究生活をチベット語システムの開発に当てることなく済んだので、
少し上の世代の先輩たちの努力の結果でき上がっているUnicodeのシステムやフォントを、
感謝しながら使わせていただこうと思っています。

Posted by: goyou | 2010.11.25 at 02:26 AM

あー、改行位置見づらくてごめん。

Posted by: goyou | 2010.11.25 at 02:27 AM

そうですね、私はXPからVistaに変えるのが遅かったので(今年4月でした)それまで文字化けしてたチベット文字が見えるようになった瞬間はなかなか感激しました。

私はテンドルのツイートをただ「チベット人も嬉しいんだな~」と思って訳してみただけで、iOSのチベット語搭載の功績がモンラム・プェイにあるなどとはまったく思いもしませんでしたし、テンドルがことさらにモンラムだけ持ち上げて真の功労者を蔑んでいるとも感じませんでした(一般には「モンラム」分からんだろうと思って補足リンクはつけましたが、チベット人だからチベット人の名前を挙げたんだろなーくらいしか思わなかった)。その半日前の野村さんのツイートはところどころ専門的すぎて理解できず反応できなかった^^ そんなわけでどちらかといえば、goyouさんが機を捉えてiOSと無関係のモンラム・プェイを唐突にディスりはじめたように感じられて「へー」と思ったのでした。
仰るように、ほとんど内実を知らないからこそ(比較対象も何もないし、クショモンラムが目立ちたがり屋かどうかも知らない^^;)テンドルの発言を見ても何も感じなかったんだと思います。

モンラム・プェイは「チベット人がチベット人に向けてチベット語入力を使おうよと呼び掛けている」シンボル的なもの以上でも以下でもなく(だって仰るとおりOSに既にチベット語環境が入ってる)、今回のiOSへのチベット語登載が自分の手柄であるかのように本人が吹聴しているor第3者がいるとも感じてなかったので、そのへんが鈍感ですみませんでした。

私は素人で業界事情を知りませんので、チベット語入力環境ができたことにチベット人も関係者も皆喜んでいることを素直に分かち合いつつ、これまで有形無形の努力をされてきた先駆者の方々の技術開発に漠然と感謝しつつ、goyouさんが念頭に置かれている方がgoyouさんが願われているようにいずれ正当な正当な評価と感謝を受けられる日を待ち望み、クショモンラムも留学で広い視野と技術を身につけてチベット人エンジニア僧侶として活躍してくれることを祈ってます。

Posted by: うらるんた(管理人) | 2010.11.25 at 11:19 AM

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