[非チベット]純中国産妖怪アクションアニメ「クイーバ(魁拔)」を観てきた
<おことわり>この稿はチベットとは関係のないオタク話、しかも「中国産アニメ」というニッチな話になりますのでご興味ない方はとばしてください。
純中国産妖怪アクションアニメ「クイーバ(魁拔)」を観てきた
観に行くまでの経緯をかいつまみますと、「鳴り物入りで大々的に制作発表された日中合作アニメがもろ『チベット』、ドッキ(チベタン・マスチフ)ネタだった」(気になる! 興味ある!)→「浦沢直樹キャラ原案、監督ら制作陣は日本人、2011年日中両国公開」(なのに公開日が数回ずらされたあげく中国でだけ公開されちゃったぞ!?)→「チベット人歌手alanが日本語・中国語の2バージョンで主題歌+本編にも声優出演」(チベットっぽいいい歌じゃん! あれ、映画公開される前に日本撤退しちゃった!? 映画のプロモーションはしないの!?)→「中国での興行成績ふるわず」(もう1本のアニメ映画に負けた? 『建党偉業』の圧力?)→「中国当局主導の映画紹介イベント『2011中国アニメ・フェス&映画週間』の上映作品にも日中合作ドッキアニメ入らない! もう1本のアニメ映画は上映されるのに!!」→純中国産をフィーチャーしたいってこと? じゃぁまぁまずそれ観に行っとくか? ……という流れでございます。回りくどくてすみません。
同じようなオタク系思考回路で日中合作ドッキアニメと純中国産妖怪アクションアニメを比較している方はいるようで、このあたりのブログもご参考までにどうぞ。→日中合作アニメ『チベット犬物語』は日本で成功しない(愛と苦悩の日記)
ちなみに、中国アニメ・フェス&映画週間の直前に日中合作ドッキアニメの日本公開(2012年1月7日~)がアナウンスされました。「鳴り物入りで前打ちしといて無視かよ!」は私の言いがかりで、既にロードショー公開に向けて公開日程の詰めに入っていたために(日本初公開、という売り文句を残すため)映画週間のラインナップから外れた、という想像のほうが当たっていそうです。
[映画.com ニュース] 「20世紀少年」で知られる人気漫画家・浦沢直樹が、キャラクターデザインを初提供した「チベット犬物語 金色のドージェ」が、2012年1月7日から正月映画として公開されることが決定した。 原作は、母を亡くした孤独な少年と一頭のチベット犬の友情を描いた、楊志軍のベストセラー小説「チベット犬」(人民文学出版社)。日本のアニメスタジオ・マッドハウスと中国の国営映画会社・中国電影集団がタッグを組み、中国政府の許可を受けた初の日中合作アニメとして完成した。
(後略。全文はリンク先へ)
http://eiga.com/news/20111020/9/
「チベット犬物語 金色のドージェ」かぁ…。そこは「ドルジェ」にしてほしかったなあ。
主役の男の子の名「田劲(田勁)」は、これまでの日本語記事でよく「ティエンジン」と表記されていた※のを、これはチベット人なら「テンジン」一択だけど、チベット名テンジンのよくある漢字表記「旦増」「丹増」と字面が違うので、もしかしたら「田・勁(ティエン・ジン)」という漢人の姓名で実はチベット人じゃないとか漢人とのダブルだという出生の秘密の伏線になってるのかもしれない、と深読みして様子見していたのに、こっちはさくっと公式が「テンジン」になってて逆にがっかり。(※Wikipediaでは「テムシン」というカナ音写表記も見かけたけど、テムシン/テムジンはどっちかといえばモンゴル人の名前だと思う)
すいません、クイーバ語りの話がドッキ(チベタン・マスチフ)アニメにそれました。「クイーバ(魁拔)」に戻ります。
『クイーバ』の概要はこのあたりへ。2010年11月2日の記事です。
→「日本アニメを抜いた?!これが中国の王道熱血アニメだ!」(KINBRICKS NOW)
愛読する百元さんのブログでも紹介されているので中国ファンの反応も含めてどうぞ。
→「中国国産アニメ映画「魁抜」が結構気合入っているらしい 」(「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む)
私が『魁拔』(中国語で発音するとクイーバより「クイバー」っぽい)に関心を持ったのは、ドッキアニメと中国での公開が重なったと知ったこと、主役CV(Character Voice)が北京外国語大学卒でニコニコ動画投稿もこなす根っからの日本動漫オタクで青二プロダクション所属の中国人声優劉セイラ嬢だってこと、ドッキアニメのテンジン役も同じ劉セイラ嬢なのでえーっ同時期公開のアニメ映画2本の主役声優がカブるのかよと驚いたこと、それから、中国人のオタク友達が「今の中国でまともな作品を作ろうとしているアニメーション制作会社はあそこくらい。中国人として応援する意味でも観に行きたい」と話していたこと。へぇーへぇーそれは興味深い。
中国のアニメーション制作は(今「せいさく」って打ったら誤変換で「政策」って出たけど、実際「政策」そのものだ)は日本とはかなり異なる状況にあって、それはその道の先達がいろいろ紹介してくださってます。
→世界一のアニメ大国・中国が抱える「国策振興」という病(KINBRICKS NOW)
→【日中アニメシンポジウム】暗~い日本とイケイケドンドンの中国=鮮明だった勢いの差(KINBRICKS NOW)
→ただし中国側はこういう認識にとどまっているらしい→「日本アニメ要人:模倣はアニメ発展で不可欠の段階」(チャイナ・ネット)
「クイーバ」の制作会社は「北京青青树动漫科技有限公司(北京青青樹アニメ科学技術有限会社)」、Vasoon animationという英語名で、企業オフィシャルサイトには英語と日本語も準備されてます。1992年に活動開始、1994年に会社組織となって、アニメーション製作やゲーム開発に16年の実績がある、と紹介されているだけでは、正直どんなもんなのか私にはさっぱりですが、オタク友達が「あの会社の作った映画だから見ておきたい」と言うのを聞いた時には、へーーぇ、日本のアニオタが「結局サンライズは……」だの「GONZOは原作破壊」だの語っちゃうのと同じように、中国のアニオタも「○○動漫公司作品だから押さえておこう」とか「××動画社は紙芝居」などと言い合ってるのか!? と考えたら面白くなって、がぜん興味がわいたのでした。
映画祭の、別に目玉でもない作品で、上映は平日昼と平日夜の2回のみ。平日夜の上映に滑り込んだところ、意外にも映画館は4分の1近くは埋まっていました(去年の東京国際映画祭のチベット映画「夏の草原」より人が入ってた…くそー^^;)。客層は、「なんでこんな人が?」と二度見しちゃうような高齢のおじさんが結構いたのと、中国人留学生っぽい若いグループが多かったかな。映画終わった後、女の子同士が「他是谁的孩子?(あの子は誰の子どもなんだろうね?)」と、残された伏線を真剣に話し合ってる中国語の会話が聞こえてきてほほえましかったです。
<以下ネタバレあり>
ストーリーは、KINBRICKS NOWの概要紹介どおり、全5部作(ホントですかね!?)あるうちの第1編なので殆どプロローグ。村を出て、船着き場のある大きな町にたどりついたところで終わっちゃいました。YouTubeに上がっている予告動画に出てくるメインキャラクターの、萌えキャラっぽい幼女もサブキャラ人気狙いっぽい少年も出てきません。メインキャラを捨てて主役2人+αの描写に力を入れた、ということかな。
なのでこれだけではストーリー語れないんですけど、伏線のちりばめ方(世界の謎の提示)、次につなぐヒキ(ある程度予測可能な部分をチラ見せしないと観客の興味がそがれる)、なかなか練られていたんじゃないかと。
中華ファンタジーという趣の世界で、擬人化された動物のようなキャラデザと人間キャラが混在しつつ、いろんな姿形の「妖怪戦士」がいてしのぎを削ってる、王や将軍もいるらしい、国も一つ二つじゃないらしい、戦争中ではないらしい、ということで、「十二国記みたいな(半妖がいる)世界なのかなー」と思いながら見てました。これも、いい意味でも説明セリフがほとんどなく、次作以降に持ち越しです。
そういえば、架空世界が描写されるときには、なにかしら投射や反映などバックグラウンド的テーマがあるんじゃないかと考えながら見てしまったりするんですが(ナウシカなら反核とか、スターウォーズなら冷戦構造とか)、そのへんはきれいさっぱり感じ取れなかったですね。強いていえば親子の信頼や絆、みたいなものかとも思いましたが、主人公キャラが嫌みのない素直で単純な性格に描かれているので元々の相克がなく、つまり乗り越えるべき危機もなし。まあそのへん「対象は6~16歳」と言い切る中国アニメには、高年齢(=オタク)向けの描写や機微は存在しないのかも。
もう一つ、これが中国らしさかな、と思ったのは描写と演出ですかね。エロなし流血なし、暴力描写もあっさり、戦闘シーンも単調かつ冗長。カメラワーク(描写するときの視線位置)に動きがなくて、わかりやすい絵といえばそうなんだけど、端的にいってテレビアニメ画面だったなあ。このへん、「「80後」「90後」でも変わらない中国のアニメビジネス」での「アニメの作り方を分かる人材がいない。例えばタイミングの取り方がわからない」(中国アニメの現状)ということかなあと。
そういえば「クイーバ」、中国公開時に「レコード・チャイナ」が翻訳ニュースのネタにして、それが掲示板に転載されたものがまとめサイトで読めます(パクリってのは単なる煽り表現だと思います)が、
【酷い言いがかり】中国が5年費やして製作したアニメ「魁拔」が、日本アニメのパクリであると批判(オモテウラ―ゲーム中心のニュースを紹介するブログ)
【画像】 中国が5年費やして製作したアニメ「魁拔」が、日本アニメのパクリであると批判(hogehoge速報)
>>346
凄いけど何か古い
90年代の日本のアニメみたい
いや、嫌いじゃないけどね
というコメントがちょっともう端的に言い表していたかもしれないです。
(「90年代の日本のアニメみたい」は、パクリだ何だと言っているのではなく、表現やアニメ的演出が全体的に時代がかってる、って文脈で)
先のブログでは(チベット犬物語に比べて)「同じ中国製のアニメなら(中略)『魁抜』の方が、よほど日本のコアなアニメファンにも理解できる要素がたくさん詰め込まれている」と分析されていましたが、うぅーん、やっぱそれはちょっと過大評価にすぎるのではないか、と思った次第でありました。
ドッキアニメ、YouTubeなどに出されている予告編や宣伝用の抜粋をみるかぎりでは、「父親との初対面、不安げな表情の主人公をくるっとカメラが回り込んで表情アップ」とか、「父子を乗せて草原を駆ける馬、後方からカメラが追いつき、ズームで馬を描写したあとすうっと馬を追い越したカメラが上方にふれて青空と雪山」とか、かーっ劇場用アニメだなあこれ大画面に映えるぜっていう細かい描写がけっこういちいちキますよ。このきめ細かさが日本アニメなんですかねえ。まあ私の場合、チベットの風景が描写されてるだけで嬉しいアホ客だって部分はありますが。来年1月のドッキアニメも楽しみです。
あれ、結局ドッキ(チベタン・マスチフ)アニメの話になっちゃった。ごめんなさい。
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