(コラム訳)On Mastiffs, Typography and the Taming of Tibet―チベタン・マスチフと書体デザインからみえる「飼い馴らされたチベット」
おおっ、チベット本土情報翻訳(英語)&論考系個人サイト「High Peaks Pure Earth」筆者のデチェン・ペンパさんが個人ブログ「Dechen's Blog」でチベタン・マスチフを題材にした日中合作アニメ映画とその主題歌歌ってるalanについてコラムを書いてるよ! ということで、勢い余って訳してみました。
原文はこちら。
先週、内外チベットで大きな話題を集めた「シャパレ・ラップ」を紹介しましたが、今回のコラムではそれと正反対の、中国当局が間違っても禁止することはないミュージックビデオを紹介しようと思います。
6月28日に中国で公開される新作アニメ映画「チベット犬ドルジェ(Tibetan Mastiff Dorje)」の予告編を兼ねたミュージッククリップです。歌っているのはalan(アラン・ダワドルマ)。
中国の国営メディアによれば、「チベット犬ドルジェ」は日中合作アニメーション映画であり、そのことで、なぜalanが主題歌に起用されたかの説明がつきます。現代チベットポップカルチャーにハマっている人なら、ダルツェド生まれのアラン・ダワドルマが、日本のJポップ界でスマッシュヒットしていることをご存じのことでしょう。(*1)
彼女はまた、2008年にジョン・ウー監督が制作した2部編成の大作映画「レッドクリフ」の主題歌を歌ったことでもそこそこ知られています。
もし誰か、なぜ彼女が自分を「alan」と呼んでいるか説明することができる人がいるなら、私はそれをぜひとも知りたいものです!(*2)
*1:ダルツェドは育ちで、出生地は違ったと思うけど^^
*2:両親の名から1文字ずつ取って芸名にした、とどこかで見た覚えがあります。出典が探し出せませんが…。デチェンさんに教えてあげたい! と思っていたら、ブログがアップされた当日のうちに、速攻でコメント欄に誰かが書き込んでいました。(はやっ!!)
映像を見るお手間をとっていただいて恐縮です。ミュージックビデオをわざわざ見ていただいたのは、短いビデオの中に、注目すべきいくつかのポイントが凝縮されていると感じたからです。
まず一つはチベタン・マスチフ。
報道によれば、「『チベット犬ドルジェ』は、西南中国チベットの高原を舞台に、10歳の少年テンジンと彼が救ったマスチフ犬を主人公としたベストセラー小説が原作」(中国西藏新聞網2011.03.23)なのだとか。
チベタン・マスチフの実物とその関連物に対する、中国のにわか成り金たちの飽くなき欲求に応え、大手アニメ会社がマスチフを題材として取り上げるのは、興行的に十分に理解できることです。成り金中国人はステータスシンボルとしてのチベタン・マスチフにとりつかれていて、先月、ある石炭王が赤マスチフに150万ドルを支払ったという話がニュースになるほどでした。(*3)
チベタン・マスチフはまた、ここ数年、小説の素材としてもむさぼり消費され、中国では、チベタン・マスチフが登場するベストセラー作品がいくつも生まれています。
*3:成り金にマスチフが売れているといっても、アニメは別モノでしょう、客層が違うでしょう? と思ったらどっこい、 「alan 中国語版新曲《呼唤》PVを《中国第七回チベット犬展覧会》で初公開」とあり、チベットから遠く離れた東北地方の都市瀋陽で開かれた「チベット・マスチフ品評会」(ドッグ・ショーみたいなものだよね?)で映画のプロモーションをしたそうです。YouTubeの動画ではalanがミニライブで歌ってます(映ってないけど会場にはマスチフ1000頭が展示されてるはず)。アニメ映像はここが初披露だったらしい。なんかすごい世界だ。
そのなかでも有名なものが、今回のアニメ映画原作でもある楊志軍「蔵獒(チベタン・マスチフ)」=上画像右=や、何馬「蔵地密碼(チベット・コード)」シリーズ=上画像左=です。チベット・コードは2008年3月(皮肉なことにも)に第1巻が発売され、大ヒットとなり、現在9巻を重ねています。私は第1巻を読んだだけですが、基本的に、伝説のチベタン・マスチフを登場人物すべてが探し回る、という筋立てでしかありませんでした…。
ちなみに、個人的なチベタン・マスチフもののお気に入りは、80年代に「ラサへ帰ろう」http://goo.gl/Jv7nc が大ヒットしたロック歌手・鄭鈞が描いたコミック作品「搖滾蔵獒(チベタン・ロック・ドッグ)」です。
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こうした出版作品を通じて、私は別のものにも注目するようになりました。それが今回取り上げたいもう一つのテーマ、フォント(字体デザイン)です。
「チベタン・マスチフ(蔵獒)」や「チベタン・ロック・ドッグ(搖滾蔵獒)」表紙の、文字上部に覆いがついたような修飾のデザイン文字を見てください。これは、中国語の漢字字体をチベット文字に似せようとデザインされたフォントの好例です。別の言語の文字をまねてそれらしい雰囲気にする陳腐なフォントデザインは、一つのジャンルとして「シミュレーション・フォント」と呼ばれています。例えば英語のアルファベットをアラビア文字に似せる「アラビック・シミュレーション・フォント」の例がこちらのサイトにまとめられています。
私はここ何年も、この「チベット文字風漢字フォント」にハマっていて、目につく物をコレクションしていました。(*4)
このフォントデザインに最初に言及したと思われるのは、アート系サイト「単位.org」http://goo.gl/4oatb で、そこでは「Tibetan-style Chinese(チベット風漢字)」と名付けられていました。「チベット文字風漢字」の流行は瞬く間に共産中国全体に広がり、ブックカバーからアルバムジャケット、食品の包装紙に至るまで、「チベットの」とつくものなら基本的にどこででも目にするようになりました。そしてとうとう今回、alanのミュージッククリップで、この字体で字幕がついているのを初めて目撃するに至ったのです。
このフォントには、alanが中国語とチベット語と英語の3カ国語を駆使して歌っているのと同じくらいウットリさせられます。alanのファンフォーラムによれば、この「The Call(呼喚)」の日本語版もどこかにあるようです。(*5)
*4:原文からURLが取り出せずここで直接リンクできませんが、原文サイトhttp://goo.gl/Gmvnq にスライドショーがあり、デチェンさんが収集したチベット語風デザインロゴの使われているレストラン看板、映画ポスター、食品パッケージ、装丁、ウェブサイトのバナー、ポイントカード、などなどの画像が見られます。けっこうな量で、興味ある人はぜひ。
*5:ツイッターで流したときは「ないと思います…」とつぶやいてしまいましたが、私が疎かっただっただけで、今年3月2日発売のベストアルバム「JAPAN PREMIUM BEST」のボーナストラックとして収録されていました。日本語題「ECHOES」、音源がYouTubeに上がっています。
チベタン・マスチフ、歌手、音楽、チベット文字風漢字 ―― これらすべての共通点は、エキゾチックに演出強調されたチベットやチベット人である、という点です。今後、私はこのテーマについて学究的に取り組もうと考えています…。
中国のこれまでのチベットに対するイメージは「粗野な未開の土人」であり、このようなエキゾチックな演出は、チベット人をニュートラルに扱い、宥和させるものでもありました。字体フォントでさえ、チベット文字には、ただ「目新しい」という以上の意味はないのです。
これは居心地の悪い政治的介入を巧みに避ける方法の一つでもあります。「未開の土人」は、いまや、「エキゾチックな先住民族」につくり変えられました―― これははたして、チベットが飼い馴らされたことを意味するのでしょうか?
……すみません、わーいalanだalanだと思って訳してみたんですが、デチェン・ペンパさん、alanの歌やパフォーマンスにはほとんど触れてくれませんでした(笑)。欧米系チベット人からみて、J-pop系チベット人アイドルという存在がどう見えるのか、褒められるかけなされるかだけでも聞いてみたかった(笑)。
そしてデチェンさんは英語ネイティブな方なので、すいません、英語自体がよく分からないけど勢いで解釈してみた、なところがあります。最後の、チベット文字風漢字フォントについて「うっとりする」と書いている部分にしても、文字通り「これは面白い、すばらしい」と言っているのか、表面的には褒めているけれど実際には皮肉って「チベット文字やチベット文化が単なる商業デザインとして消費され、見た目だけのチベットっぽさが売りにされたところで、チベット文化の本質は何も伝わらないし、中国人富裕層の消費するチベットと、チベット人自身にとってのチベットは乖離していくだけだ」という意を含ませているのか、私にはわかりませんでした。イギリス英語に長けたチベット関係の方にはぜひ原文を読んでいただければ幸いです。
(まあデチェンさんにはいつか直接会うことがあればゆっくり話を聞いてみようと思います。)
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